ランチタイムの真っただ中
賑わう食堂のど真ん中
旨そうにハンバーグを食べる友人を眺めていて
唐突に俺は
胃の中のものをすべて外にぶちまけてぶっ倒れた
それは、まだ桜が散りきる前の季節――――
『ささやかな痛みの終り』
ひどい吐き気の中、目を覚ますと見慣れた白い天井が視界いっぱいに広がっていた。
「…さいあくだ…」
あんな食堂の中で吐き散らかすなんて…大失態すぎる。
それも友だちの目の前って…
力の入らない腕を両目の上に置く。それでこの吐き気がどうにかなるわけでないけど、今はこの重みが欲しい気がして。
ふうわりとした暖かな風が頬を撫でた。
目線だけ横を見やると、柔らかそうなカーテンが春風でゆるやかに膨らまされている。
外はこんなに穏やかだというのに。…この体はそんなに吐きだしたいのか。
「とーらちゃん」
ひょいとしきりの向こうから顔を出したのは、食堂で一緒に食べていた友人の一人だ。
「目ぇ覚めた?気分は?」
「…さいあくです…」
「うん、それは俺も最悪だった」
横で全部吐かれたからね、と友人は笑う。冗談半分、本気半分、てとこだろうな。
「センセには言っておいたよ。それから、幾乃ちゃんにも」
にやにや、と笑いながら言う友人に、うげ、と苦い顔をしてみせた。
幾乃は俺の年子の姉ちゃん。何を考えているのかあんまりよくわからん女です。
「幾乃ちゃんは帰れ、て言ってたけど、どうすんの?」
どうしようか、ね。
授業に出るような気分じゃないし、かといって今帰るのもなんだか面倒くさいし。
「…起きてなかったことにしてもう少し寝る」
「せんせー!市岐がさぼってまーす!」
「いいじゃん別に!今くらい寝かせろよなー!」
「なに、とらちゃん、また寝てねーの?今夜俺のベッド来る??」
「だぁれが行くか、ボケ!」
意地はっちゃってー、と寮住まいの友人はケラケラと笑って「荷物は教室に持ってったからなー」と保健室を後にした。
…一年前から、俺は自室で寝られなくなっている。
何故かは、よくわからない。ただ、寝つきが悪くて、寝ても1、2時間ごとに目が覚めてしまって、まとまった睡眠がとれない。
偶然、寮住まいの友人の家に泊まった時にはよく眠れたので、今もちょいちょいと寮住まいの友人たちの部屋に泊めてもらっている。さっきの友人も、その一人だ。
きっと、今日もよくは眠れないだろう。
一年前…その一年後…
すべての原因はあの日にあり、そしてあの日の出来事のすべての原因は、俺自身にある。
巡り巡って、最後は俺のところへ戻って来たのか。
自業自得、という言葉が一番しっくりくるんだろう。それは十分承知しているけど、もう自分ではどうしようもない。
俺は春風の心地よさに幾分救われながら、ただ目をつむった。
あれから一年。もう一年経つのだ。
弟が、「消えた」あの日から。