少しまだ寒い。こちらの方は春の訪れも遅く、清廉な冬の気配がまだ残る。
「来てくれてありがとうな」
発車を待ち構える新幹線の前で、ねいさんがいつもの苦笑に似た笑顔で言う。
「ねいさんもたまにはこっちに来いよ」
「あぁ、今度暇を付けて」
ねいさんとりんちゃんがぽつりぽつりと言葉を交わす。
それはあの高校の時のような、あの下校前のやりとりのような。
一瞬、感覚が黄昏の学校まで戻された。
「眠そうだな」
ぼんやりとしていたらしい俺の頭を、ねいさんがぽんと叩いた。
「お前はちゃんと寝ろよ?」
「言われるまでもないよ」
ニヤリと笑って見せたけど、ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜる相手の手はそのままに。

発車のアナウンスが流れる。
「じゃぁ、また」

『また明日』

そう言えたかつてが、素知らぬ顔で振りむく。
3人の間に生まれた一瞬の空白。
ねいさんとりんちゃんが、同じような苦笑で笑い合い、俺はそれを忘れないように目に焼き付けた。

声を聞こうと思えば携帯が
相手の顔が見たければ写真が
通じ合える手段はたくさんあるのに
同じ空間にいつでもいられると確信できる手段は、あの時間を過ぎた今も未来これからも得ることはできないんだ。


「また来よう。今度はキングとイズミ連れて」
「そうだな」
「絶対来ような」
「うん、絶対な」
「つかその前にあいつを来させるか」
「…そうだな」
ふふ、と隣に座るりんちゃんが笑う。
俺がそれを見ることができなかったのは、

瞬いた目のまつ毛に、溢れそうになった涙がまとわりついていたからに他ならない。





同じ空を見上げていると分かっていても、「明日」と言えない距離にいるのでは寂しいんだよ。

ねいさんとりんちゃんと郁で、社会人設定か?笑 郁はなんだか疲れてるみたいですね←